【公教育を問う】第2部「ゆとり」の先に(4)最低基準に抜け道の恐れ
2008年02月23日 産経新聞 東京朝刊 社会面

 「これでは抜け道だらけだ。改正された教育基本法が空文化する」

 小中学校の新学習指導要領案が公表された15日、衛藤晟一参院議員(自民)ら有志の議員が文部科学省の幹部に詰め寄った。

 文科省は教育基本法改正を受け、新指導要領に伝統文化、道徳教育の充実などを盛り込んだ。

 「抜け道」とは、例えば小学校の音楽では、指導計画作成の配慮事項として「国歌『君が代』は、いずれの学年においても指導すること」と、従来の表現を踏襲した。

 だが、衛藤議員は「児童が『君が代』を歌えるようにならなくても教員は『指導はした』といえば済まされてしまう。『歌えるよう』指導するといった『到達目標』を明記しなければ、教育現場は変わらないのではないか」と指摘する。

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 関係者が「抜け道」を懸念する背景には、卒業式・入学式の国旗、国歌や「道徳の時間」などに対し、教育現場で指導要領の趣旨をないがしろにし、形骸(けいがい)化するケースが少なくないからだ。

 「今回の指導要領は最低基準か、最高基準か」。新指導要領発表の記者会見で質問に対し文科省は「最低基準だ」とした。平成10年の改定時にはこの点があいまいで、「最高基準」と受け止めた識者らから「ゆとり教育」の批判を浴び、15年の一部改正で「最低基準」であることを明確化した経緯がある。

 「指導要領がかつて『逸脱を認めない最高基準』と受け止められたのは、イデオロギー対策だった」と話すのは、文科省関係者だ。「当初から最低基準だったが、日教組による反日的な教育などが問題化するケースがあったために、その対策として最低基準を一時的に『最高基準』だとすり替え、逸脱を認めなかった。それが元の姿に戻っただけ」と明かす。

 「いま道徳の教科化に踏み切っても、国旗・国歌と同じ指導形骸化の心配がある」。今回改定での道徳の教科化見送りについて中央教育審議会の一人は議論の一端を明かす。

 委員は「文科省の指導に反発する教員が『言われたことをやっていればいい』という、やる気のない風潮が蔓延(まんえん)している」とし、「今は教材の充実を先行させ、現場が主体的に取り組む状況になってから踏み切った方がいい」と話す。

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 今回の改定について、「新しい歴史教科書をつくる会」(藤岡信勝会長)は「改正教育基本法の趣旨を反映させる努力の跡はみられるが、不十分だ」とし、特に中学公民で「国家とは何かを教えず、領土問題で竹島、尖閣諸島に触れていないのも遺憾」としている。

 冒頭の「到達目標」の明記については、民間教育シンクタンクの日本教育再生機構(八木秀次理事長)も「学校教育法で義務教育が『努力目標型』から『達成目標型』に変わったのに、上位法を無視している」と文科省を強く批判する。

 中教審も17年10月、今後の義務教育について「到達目標を明確化し、教育内容の改善を図る」と答申していたが、その後の議論で後退した。「今回の改定で全体の学習内容が増えたのに、内容を絞った到達目標を示せば、『それだけやればいい』ということになりかねない」とは、文科省の説明だ。

 衛藤議員は「イギリスの教育が1990年代に立ち直ったのは、到達目標と、その達成状況に関する評価を明確にしたから。道徳を教科化しなかったことも含めて、非常にあいまいな部分が残ったのは残念だ」と話している。